むかしの話 3
ふと娘がいないのに気づいた黒いものが、ふうふういいながら淵からはいあがって、
「娘え、待てえ、待たんかあ」
とあとから追ってきました。
しかし黒いものはれんげ草沈めでへとへとになっているので、娘に追いつくことはできませんでした。
娘はどんどん、どんどん逃げました。
そのうち夜のことであるので、道をまちがえてしまいました。
しかしかまわず走って行くと、向うに灯が見えました。
山の中の一軒家でした。
「今晩は。今夜ここに一晩、宿を貸してくれませんか。」
娘がこういうと、白髪ばばが出てきました。
「ここは宿を貸すところじゃなか。ここは盗賊の家じゃ。おまえはこの道をずっと行きなさい。
そうすると村があるから。」
娘はまた一人でどんどん歩いて行きました。やがて夜が明けました。そしてある村里にきました。
「りっぱな村だが、ここは何というところじゃろうか。」
こんなことを思いながら行くうち、空腹をおぼえました。石塚孝一氏によると、そこで、ちょうど通りかかった大きな店にはいって、
「ごめん下さい。わたしは向うのずっと先の村からきたものです。釜たきでもよかから使ってくれませんか」
とたのみました。山道を歩いてきたので、娘は泥んこになっていました。それを見て亭主が、
「そいじゃ、釜たきなら使ってやろう」
といって、やといました。